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松山地方裁判所 昭和42年(わ)78号 判決 1969年3月29日

主文

被告人竹内昭一を懲役一年六月に、被告人伊賀上昌訓、同家木辰夫を各禁錮八月に処する。

ただし、被告人伊賀上昌訓、同家木辰夫に対し本裁判確定の日から各三年間その刑の執行を猶行する。

被告人竹内昭一から、押収してある現金一九万円(証第二四号)を没収し、かつ、金一四万一九〇〇円を追徴する。

訴訟費用中、証人中野雅夫、同木下幸村、同山崎三郎、同瀬川文利、同羽藤武氏、同松木久儀に各支給した分は被告人竹内昭一、同伊賀上昌訓、同家木辰夫の連帯負担とし、証人渡部義輝に支給した分は被告人竹内昭一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人竹内昭一、同伊賀上昌訓、同家木辰夫は、昭和四二年一月二六日施行の愛媛県知事選挙に際し立候補した久松定武の選挙運動者であるが、

第一、被告人三名は、県政刷新県民の会、日本社会党、日本共産党が支持し推せんしていた同選挙の立候補者湯山勇の当選を阻止し、唯一の対立候補者である前記久松定武に当選を得させる目的をもつて、共謀の上、同年一月二五日午前零時三〇分ころから同日午前四時ころまでの間、自動車を使用し、右三団体の名義を冒用して「県民の皆様いよいよ明日は我々の手で県庁の日の丸をおろし高々と赤旗を立てる日です、また一日も早く愛媛の教育を改め、中国(紅衛兵)のような青少年をつくりましよう、一月二十六日投票の日、県民各位へ」と印刷してあつて、あたかも右三団体の支持する湯山候補者が当選するときは、愛媛県庁を赤化し、愛媛県の青少年を紅衛兵(当時中国において紅衛兵が勢力を伸長し、その無軌道ぶりが批難されていた)化するかの如く暗に思い込ませるような内容の、湯山候補者の当選を妨害し、久松候補者の当選を有利ならしめる文書約四万枚を、同選挙区の選挙人である松山市畑寺町吟松庵足立文雄方表路上ほか人目のつき易い同市内の街頭数十ケ所に散布し、夜の明けると共に多数の選挙人に閲覧させ、もつて、法定外選挙運動文書を頒布し、

第二、被告人竹内昭一は

(一)  昭和四一年一二月三〇日ころ同市一番町三丁目二〇の一久松定武選挙事務所において、同人の選挙運動者である渡部義輝から右久松定武に当選を得しめる目的のもとに同人のための投票取りまとめなど(主として遊説企画)の選挙運動を依頼され、その報酬等として供与されるものであることの情を知りながら、現金六五万円の供与を受け、

(二)  公職選挙法二一一条一項一号違反により昭和三九年一一月二五日松山地方裁判所において懲役四月、三年間執行猶予の判決の言渡を受け、昭和四一年三月一五日右判決が確定したため選挙権および被選挙権が停止中であるのに拘らず、前記久松定武に当選を得しめる目的をもつて、昭和四二年一月一日から同月二五日までの間、前記久松定武選挙事務所において、遊説企画係として同候補者のための選挙運動をし

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人三名の判示第一の所為は公職選挙法二四三条三号、一四二条、刑法六〇条に、被告人竹内昭一の判示第二の(一)の所為は公職選挙法二二一条一項四号、一号に、同被告人の判示第二の(二)の所為は同法二三九条一号、一三七条の三に各該当するところ、所定刑中、判示第一の罪についてはいずれも禁錮刑を、判示第二の(一)の罪については懲役刑を、同(二)の罪については禁錮刑を各選択し、判示第一の罪の所定刑期範囲内で、被告人伊賀上昌訓、同家木辰夫を各禁錮八月に処し、被告人竹内昭一の以上の罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役一年六月に処する。ただし、被告人伊賀上昌訓、同家木辰夫に対しては、同法二五条一項により本裁判確定の日から各三年間その刑の執行を猶予する。押収してある現金一九万円(証第二四号)は被告人竹内昭一が判示第二の(一)の罪により収受した利益の一部であるから公職選挙法二二四条前段により同被告人からこれを没収し、同被告人が右罪により収受したその余の利益である金一四万一九〇〇円(金六五万円から右金一九万円および同被告人が遊説に関する選挙運動費用として支出した合計金三一万八一〇〇円を控除)はこれを没収することができないから同条後段により同被告人からその価格(金一四万一九〇〇円)を追徴することとする。訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して、主文末項掲記のように被告人らに負担させる。

よつて、主文のとおり判決する。

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